ぼくはおまえに呼ばれてついていく
天がける白い足跡を辿って
もう少しで暮れてゆく
見えない海の方へ
漂流物の中にも
ぼくの求めているものが
あるのだろうかと思って
隈なく探してみたよ
死んだ貝殻
腐敗した流木
汚らしい車輪
歪んだジュースの空缶に
片っぽだけの靴下
「ああ、ぜんぶ気持ち悪い!」
ぜんぶがぜんぶ
得体が知れないし
底無しに不気味でさ
生きていたときがあったのかと思うと
嘔吐でもしそうになってさ!
死んでいったものばかりを探してしまうぼくは
いつの間にか
今までのぼくではなくなっていくよ
本当に、、、
ぼくは砂浜にしゃがんでみた
そうして黄金のさざ波を
ひとつひとつ数えるんだ
そうすれば、ぼくの心もほら
おまえの足跡のように
美しくなれるのだからさ
きっと
あなたの言葉に触れるたび
どうしてこうもぼくの胸
高鳴るものがあるのだろう
あなたの心に触れるたび
どうしてこうも悩ましく
日々を愛してゆくのだろう
この目に溢るるろうそくを
ため息とともに吹き消せば
溶けそこなった燃殻と
消えそこなったこの涙
あぁ、なんて儚げに
あなたの上に散ってゆく
もしもあなたを失って
迷子石のように当てどなく
取り残されるぼくならば
いっそこの身を滅ぼして
明けない夜を夢みつつ
あなたを探しに行ければいい
宮殿の冷たい回廊に
うずくまる老王がひとり
熟れた洋梨を食み
半ば虚な目をして
かなしげに
吊り下がった炎
鏡に写る虚像
そのすべてが
王の胸内を幽かに燃やし
追憶を深めゆく
夜陰を伴って
窓辺を叩く雨音の
しとやかなる伴奏
地面に滴る甘き香り
なべて失われ
なべて沈黙に変わり
ああ、憐れなる者よ
太陽なりや
聖杯なりや
世を憂えたまうもの
世を変えたまうもの
そは生活の光なり
日々のつつましい働きなり
そをおまえは知らず
天上を仰ぎみて
老いたる王よ
何をかおもう
羽ばたく神の使いらも
目に映れば
彩られし絵画に過ぎぬものを
上弦の月が
どっとしている
波紋のような、瓦のような
指紋のような、皺のような
柔らかそうな薄そうな
風を浴びた
白浜のような
パステルカラーの
絹のような
縞模様の冬のような
純白の微粒子のような
等間隔の国境のような
重なり合ってくっついて
大きいような小さいような
近いような遠いような
ますます濃くなる上弦の月
おれの内面のそこかしこで
逃亡者のようにこそこそと逃げ惑う
あやふやな「こころ」という存在
おれはもう
貴様らのような詐欺師と付き合うのは
うんざりだ!
おれは貴様らのせいで
これまで築き上げてきたものすべてが
無益に思えて仕方なくなり
ついにはそれらすべてを
跡形もなく消し去ったのだ!
そうして人生の猛り狂う嵐を逃れて
安らかな、永い時空の寂寞に
この魂を委ねることにした
おれがまだ大地に根を張り
太陽の光を浴びながら
意気揚々として輝いていた頃
まっしぐらに、迷いなく呼吸しながら
真の愛を求めていた頃
おれは貴様らのせいで
幾度めまいをし
嘔吐させられ
希っていた甘い夢も
無残に引き裂かれたことだろう!
今思えばそれも結局は
貴様らの義務の一つに
過ぎなかったのだろうが
惑乱し、気が狂い
あやふやなものを信じ
そのために
理想とはかけ離れた道を
知らず知らずのうちに進んでゆく
貴様らと出会った者たちは皆
こうなる運命にあった
かくゆうおれもまた
そのうちの一人であった
けれどどうしたことか
おれは今
この素晴らし奥津城の安寧から
引きずり出されようとしている!
今となってはただ空っぽなだけの
生温いだけの大地の日向へと
再び投げ出されようとしている!
それも貴様らによって!
かつておれは魂のありかを
誤って貴様たちに教えてしまったのだ
そして貴様たちはその隙をついて
密かに玉座を、おれの魂の玉座奪っていった!
おれが最期に見た光景は
憎悪と嘲笑とがおれに向かって
剣を振りかざしているところだった!
ああ、けれど
今のおれならどうする?
運命がこれ以上
おれに眠ることを許さないとするならば
どうすればいい?
いうまでもなくおれは詩をもって
貴様らと対峙するしかないだろう
おれは詩の剣をもって貴様らと対峙し
魂の玉座を再び奪い返すつもりだ!
聞け、愛すべき星たちよ
かつておれに
数々の詩を授けてくれたものたちよ
おれは今まで
閃くひとつの星をみて
無限の宇宙を想像出来ぬものは
詩人にはなれないと信じていた
けれど、もうそれは違うのだ
むしろおれは
おまえたちに語りかける詩を
創造せねばならなくなった!
そうすることによってのみ
おれはおれの内部で逃げ惑う
「こころ」という存在をひっ捕まえ
そいつらのど真ん中に
剣を思いきり突き刺すことができるのだ!
ああ、だからこそ
運命よ!
与えたまえ!
おれの隣に
いつも
あやふやな
いかさまなものではなく
偽りなく愛せるものをのみ
与えたまえ!