ぼくではない
遠吠えがする
けれど
行き交う人々の
影のような
エントツの煙の
行方のような
眠る草花の
香りのような
ブレーキランプのほの淡い
にじみのような
僕がいる
濡れた手紙も
渡せないまま
過ぎ去ってゆく
街の中
憂鬱な戯曲を
演じるように
雨はこころに
降ってくる
街灯の明かりは水の上
乱反射して傘の上
薄暗がりのぼくの上
私と傘と雨粒たちと
寂しさばかりが
照らされる
あの遠吠えは
ぼくじゃない
ぼくのであって
ぼくじゃない
ぼくではない
遠吠えがする