2018年5月19日土曜日

分身


ぼくではない
遠吠えがする

けれど
行き交う人々の
影のような
エントツの煙の
行方のような
眠る草花の
香りのような
ブレーキランプのほの淡い
にじみのような
僕がいる

濡れた手紙も
渡せないまま
過ぎ去ってゆく
街の中
憂鬱な戯曲を
演じるように
雨はこころに
降ってくる

街灯の明かりは水の上
乱反射して傘の上
薄暗がりのぼくの上
私と傘と雨粒たちと
寂しさばかりが
照らされる

あの遠吠えは
ぼくじゃない

ぼくのであって
ぼくじゃない

ぼくではない

遠吠えがする