旅立ったあの人の家の庭に
綺麗な花が咲いている
鳥や虫たちは
あたりを見回しながら
しばらくうろうろしていたが
いつしか
花のもとから
離れていった
庭に咲いていた花は
彼らを追いかけなかった
追いかけることなど
できなかった
それなのに
彼らは
花のもとから
離れていった
離れるしかなかった
けれども
それを見ていたぼくも
同じように
そうするしか
なかった、、、
「君たちは
ぼくらを
置いていくのかい
ぼくらは
きみたちを追いかけたくても
追いかけることが
できないのに、、、」
そんな声が
聞こえてきそうだった
「きっとまた
こっちへ
戻ってくるから」
ぼくは
胸の中で
約束した
そうして
ぼくは
また歩き始めた
歩き始めるしか
なかった
遠ざかるにつれて
募ってゆく寂しさ、、、
涼しい風が
昨日よりもつよく
ぼくを抱きしめてきた
だから
ぼくもその風を
昨日よりもつよく
抱きしめてやった
「あすこの庭に
綺麗な花が
咲いているよ」
ぼくは教えてあげた
「そうかい
それじゃあ僕も
見てこようかな」
風がそう答えた
そう答えることしか
できなかった、、、
この世に生まれ落ちた時から
いや、生まれ落ちるその前から
ぼくの命の灯芯には
火がつけられて
それを今日まで休みなく
すり減らし続けている
ぼくはいつまでも
いや、ぼくだけではない
風も鳥も虫たちも
それから
あの庭に咲く花も
進んでゆくことしか
できないのだ
それはみんな
同じことだ、、、
ぼくは落ちていた石を拾って
川に放り投げた
「どこへ向かっているのかなんて
誰も知りはしないさ
この世にはただ
駆け引きが多いだけなんだね」
柔らかに波立つ水面が
そう言った
「駆け引きが多いだけ、、、」
みんな
自分のことさえ
よくわからないんだな、、、
ぼくはまた
どこかへと
歩き始めた
どこかへと
歩き始めた