2018年6月8日金曜日

バードコール


どんなに素晴らしい音楽よりも
ぼくを楽しませ、頬を緩めさせ、寛ぎをもたらし
朗らかで、和やかな気分にさせてくれる小鳥が一羽
まるであなたの肩にとまるようにして
電線の上に、爪を引っ掛けてとまっていました。
頭を可愛らしく左右に小さく振りながら
多分こっちも見ていた気がします。
だけど彼は何かをさえずるわけでもなく
ぼくが一瞬間だけ、湿った路面や
うすぼらけた朝霧を爽やかにまとった風の匂いに
うっとりとして目を背けている間に
もうどこかへと羽ばたいていってしまいました。
あなたがやってくるとき僕は
自分には備わっていないはずのものまで
ほんとはもう十分に掴み取っているのではないかと思ってしまいます。
ひび割れた大地も、遠くで車がかすれたように走る音も
外の風景を遮る埃をかぶったカーテンも
あなたの神々しく、温かく、それでいながらどこか冷徹な眼差しに触れてしまえば
ひとたまりもなくなってしまうような気がするのです。
しかしあなたならばどんな邪悪でも許してしまわれるということは
ぼくにとっては、時にあまりにも心苦しく、受け入れがたいことでもあるのです。
あなたが許すもの全てが正しく思えてしまうのですから。
そしてあなたはぼくにさらなる高望みもさせてしまうのです。
あなたはその高貴な眼差しによって
決して今のぼくには手に入れられそうにないものにまで
目を向けさせ、欲望を駆り立ててしまうのです。
あなたによってどれだけのものが救われたかしれません。
けれどもまたあなたによってどれだけの勘違いをし
誤りを犯し、盲目になり、苦しんだことでしょうか。
私があなたから抜け出すことは当分できないでしょうし
自らそうする勇気もないのです。
けれどこれだけは幸いなことだと言い切れます。
あなたのおかけでぼくは
自らを災いに陥らせたいという気持ちから
遠ざかってゆくことができるのですから。
ぼくの住むこの場所の近くには山も谷も、丘も、森もありません。
けれどもその全てがぼくの側で脈を打ち、呼吸をし、あなたによって目覚めてゆくのを
この場所にいながら、あなたの訪れを目の当たりにし、肌に触れ、耳を傾けるだけでも
まざまざと感じ取ることができるというのは
本当に驚くべきことであり、凄まじい生命の、心の、精神の純粋な働きなのです。
私が眠るのは決してあなたから顔を背けるためではないのです。
それはやはりあなたからの果てしない温情に
ひとりそっと感じ入るためなのです。