2018年2月22日木曜日

半透明の臓腑




憎ましくおもっている相手が
無様な格好で汚穢な空間に投げ出されている姿に
まるで侮辱語のすべてをしたためた唾液を吐き捨てながらも
わざと憐れみ深い同情の眼差しを送ったあげく
近づいて手を差し伸べようとする素振りを見せるだけで
本当はそのままくたばってしまえばいいと思っていることを
彼に聞こえよがしに聞かせるでもなく聞かせないでもないようにぶつぶつ呟きながら
傍目からはさも献身的で心の優しい聖人のように思われているのだということを
彼に見せしめることができたならばさらに屈辱を与えられるだろうということもわかったうえで
彼が他の人たちからは絶対に救われないようにするために
あえて生き絶えるまで寄り添い続けることで
むしろ最後の最後まで支え続けたがその必死の願いも虚しく終わり
どんな励ましも届かないといった様子でうなだれて
逝ってしまった人を永遠に想っている尊い人のように噂させておきながら
みんなには自分のそんな弱いところを決して見せるわけにはいかないのだと言い聞かせて
死んでしまった最愛の人の代わりにもっと強くたくましく前向きな気持ちで
己の人生を大切にして生きていかなければならないのだという決心を
いまはまだこんなちっぽけで頼りなく未熟だが
それでも志に満ちたこの燃えるような右胸にしゃんと誓ってから
それに周りの人たちが勝手に感動してくれるのを期待しつつ
自分の健気さをそれとなくほのめかすような態度で立ち上がり空涙を浮かべるのだが
内心では相手の全尊厳さえも遺棄するかのごとき残虐非道な心を持って
すぐにはわからなくとも後からじわじわと憎しみが募っていくような目つきをして彼を見下げ
泥にまみれた靴底を相手の口に最初は軽くなすりつけて最後には無理やり口の中に押し込み
やりきれない怒りと恥辱と醜態と絶望を同時に味わわせる方法によって
肉体的にも精神的にもとことんまで苦しませてやると約束したにもかかわらず
実際はそうではなく彼に訳もなく謝罪を要求して相手が謝ろうと謝るまいと
そんなことは一切構わずに彼の髪の毛をむしり取り
汚濁した川に浮かぶ気味の悪い植物と一緒に彼の口の中に押し込むという拷問を加えても
まだ物足りなく感じてしまっている人でなし的なやり方で
いまさっき生ごみを捨ててしまった。
開きなおってしまった人間は何よりも忌々しい。